浮気した夫に対する離婚請求と、浮気相手に対する慰謝料請求

夫の浮気が発覚した場合の裁判手続

今回は夫の浮気が発覚した場合の裁判手続きの進め方についてのお話しです。

※ 以下では説明を単純化するために夫が浮気をしたケースを想定して説明しますが、「夫」と「妻」を入れ替えても結論に影響はありません。

こういった場合、夫に対しては離婚請求をし、浮気相手には慰謝料請求をすることになります。

別々に審理すると非常に面倒

2つの請求をすることになるわけですが、これを別々に裁判しなければならないとなると、何かと大変です。訴状や証拠を2セット用意しなければなりませんし、裁判対応の労力も2倍かかってしまいます。印紙代や郵券もそれぞれの訴訟分を用意しなければなりません。非常にめんどくさい。

めんどくさいだけならまだましで、それぞれの裁判で異なる内容の判決が出てしまうことも制度上考えられます。そうなってしまった場合、両者の判決の関係をどう考えるのかという法理論的にも困難な問題にぶち当たってしまいます。

 併合審理はできないかー人事訴訟法17条

夫に対する請求と、その浮気相手に対する請求は、裁判上問題となる事実関係はほぼ共通ですし、証拠もほとんど同じでしょう。

であればこれらを併合して審理できれば上記の問題をすべて回避できます。

人事訴訟法ではこうした事案を想定して、上記2つの請求を併合して審理することができると定めています。

(関連請求の併合等)
第十七条 人事訴訟に係る請求当該請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求とは、民事訴訟法第百三十六条の規定にかかわらず、一の訴えですることができる。この場合においては、当該人事訴訟に係る請求について管轄権を有する家庭裁判所は、当該損害の賠償に関する請求に係る訴訟について自ら審理及び裁判をすることができる。
2 人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求を目的とする訴えは、前項に規定する場合のほか、既に当該人事訴訟の係属する家庭裁判所にも提起することができる。この場合においては、同項後段の規定を準用する。
3 第八条第二項の規定は、前項の場合における同項の人事訴訟に係る事件及び同項の損害の賠償に関する請求に係る事件について準用する。

「人事訴訟に係る請求」という部分が夫に対する離婚訴訟で、「当該請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求」という部分が浮気相手に対する慰謝料請求訴訟のことです。

ここで法律上のお話になりますが、夫に対する離婚請求は家庭裁判所の管轄で、浮気相手に対する慰謝料請求は地方裁判所の管轄となります。家庭裁判所で扱う事件と地方裁判所で扱う事件は制度上併合して審理することができません(民事訴訟法136条)。

したがって、両者は本来別々に審理しなければならないのですが、それだと上記の通り不都合が生じてしまいます。そこで例外的に両者を併合して審理できるようにしたのが上記の人事訴訟法17条なわけです。

(請求の併合)
第百三十六条 数個の請求は、同種の訴訟手続による場合に限り、一の訴えですることができる。

この制度を利用すれば、妻は、夫に対する離婚訴訟と浮気相手に対する慰謝料請求訴訟を併せて、家庭裁判所に提起することができます(人事訴訟法17条1項)。

別々に訴えることももちろんできるが・・・

2つの訴えは必ずセットで提起しなければならないというわけではありません。

とりあえず夫に対する離婚の訴えを家庭裁判所に提起しておいて、浮気相手に対する慰謝料請求は留保しておく。そして、しかるべきタイミングで浮気相手に対する慰謝料請求の訴えを家庭裁判所に提起し併合審理してもらう、ということも可能です(人事訴訟法17条2項)。

ただし、先に浮気相手に対する慰謝料請求訴訟を地方裁判所に提起して、その後に妻に対する離婚訴訟を当該地方裁判所に提起することはできません。離婚訴訟は家庭裁判所でしか扱えないからです。

また、あえて別々の裁判所で審理してもらいたいという場合には、原則通り、夫に対する離婚の訴えは家庭裁判所に、浮気相手に対する慰謝料請求は地方裁判所に提起することはできます。

もっとも、この場合には、浮気相手の方から、両者を併合して審理してもらいたいとして、移送の申立てをされることが考えられます(人事訴訟法8条1項)。

そして、裁判所がこれは併合して審理した方がよいだろうと考えた場合には、事件が家庭裁判所に移送され、家庭裁判所で2つの請求が併合して審理されることになります(人事訴訟法8条2項)。

(関連請求に係る訴訟の移送)
第八条 家庭裁判所に係属する人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求に係る訴訟の係属する第一審裁判所は、相当と認めるときは、申立てにより、当該訴訟をその家庭裁判所に移送することができる。この場合においては、その移送を受けた家庭裁判所は、当該損害の賠償に関する請求に係る訴訟について自ら審理及び裁判をすることができる。
2 前項の規定により移送を受けた家庭裁判所は、同項の人事訴訟に係る事件及びその移送に係る損害の賠償に関する請求に係る事件について口頭弁論の併合を命じなければならない。

どんな訴訟をどの裁判所に提起するかも重要!

どういう請求を、どういうタイミングで、どの裁判所に提起するかも、トラブル解決の上で重要な要素です。

また、夫に対する離婚請求と浮気相手に対する慰謝料請求の併合が常に認められるというわけでもありません。

自分の場合はどうなんだろうとお考えの方は、ぜひとも弁護士にご相談ください。