「養育費は払わなくていい!」ー養育費不請求の合意をしてしまっても養育費を請求できる場合

ご相談内容

離婚する際、どうしても子の親権を取りたかったため「親権をもらえるなら養育費は払わなくていい」と夫に言い、その条件で離婚しました。しかし、生活が厳しくなってきたので元夫に養育費を請求したいと考えています。養育費を請求することはできるのでしょうか。

今回は、こちらのご相談をもとに、養育費不請求の合意について検討したいと思います。

養育費不請求の合意とは?

離婚をするときには子の養育費の額等を決めなければなりません。

第766条1項 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。

民法766条1項本文中の「子の監護に要する費用の分担」という部分が養育費に関する規定です。

離婚する際に、養育費を支払わないという条件で離婚をするケースがあります。ご相談内容のようなケースが典型例です。

このような養育費を請求しないことを内容とする合意(養育費不請求の合意)がなされた場合で、事後的な事情の変更等によりやはり養育費を請求したいと思ったとき、養育費を請求することはできるでしょうか。

養育費不請求の合意は有効か?

そもそもこうした養育費不請求の合意は法律上有効なのか、という疑問を持たれる方もいらっしゃるでしょう。もっともな疑問だと思います。

しかし、こうした養育費不請求の合意も原則として有効と考えられています。すなわち、父母は子の養育に必要な費用を分担しなければなりませんが、その際一方の分担割合をゼロとする趣旨の合意としては法律上有効となります。

したがって、養育費不請求の合意をした場合に後になって養育費を請求することは、この合意に反することになります。

では、もう養育費を請求することはできないの?

上記のように養育費不請求の合意も法律上有効です。

このような場合でも、相手方に養育費を請求することができる場合があります。

事情の変更がある場合

1つ目は、合意後父母の経済状況に大きな変化があった場合等事情の変更がある場合です。こうした場合には例外的に養育費の請求が認められます。

扶養料の請求をする場合

2つ目は、子が親に対して直接民法877条1項の扶養料を請求するケースです。

第877条1項 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。

民法877条1項は「直系血族は・・・互いに扶養をする義務がある。」と定めており、親は子を扶養する義務を負っています。逆に子は親に対して扶養を請求することができます。これを扶養請求権と呼んでいます。

養育費不請求の合意は父母間の合意ですから子には影響しませんので、子は親に対して民法877条1項に基づいて扶養料を請求できます。

この場合、子が未成年者である場合には親権者である親が法定代理人として扶養料を請求しますので、交渉や調停の場に登場するのは親ということになります。

養育費不請求の合意をした親が今度は扶養料の請求をしてくるわけですから、相手方としては納得いかないこともあるでしょう。しかし、現状の法律を解釈する限りこうした請求も可能ですし、裁判所もこの請求を認めています。

ただし、扶養料の金額を算定するにあたっては、養育費不請求の合意がなされていることが一つの事情として考慮され、一般的な扶養料の額よりも低額となってしまうことが多いと考えられます。

弁護士の回答

冒頭のご相談者のケースに回答するとすれば、

  • 養育費不請求の合意は有効なので、原則として養育費は請求できない。
  • しかし、事情の変更があると認められれば例外的に養育費の請求ができる。
  • 子が相手方に扶養料を請求することもできるが、その際の扶養料の金額算定に当たって養育費不請求の合意がなされていることが考慮され、低額となってしまう可能性がある。

となります。

「相手と関わりたくない」、「取決めの交渉がわずらわしい」と考えて養育費はいらないといってしまうこともあるかもしれません。しかし、「養育費不請求の合意」は、お子さんの生活に与える影響が大きいものですからおすすめはしません。離婚の際にはぜひとも弁護士にご相談ください。

また、相手方から養育費不請求の合意を強く要求され困っている場合には、必ず弁護士に相談してください。