本当はもっと貯蓄があるはず!-財産分与で浪費分を考慮することはできるか?

今回のご相談

【ご相談】
現在、妻と離婚調停中です。婚姻中は私の給与口座等もすべて妻に預け家計管理をすべて妻に任せていました。今回離婚することになり通帳を返還してもらったのですが、残高はほとんどありませんでした。私はそこそこの給与を得ていますから、妻が家計管理をきちんとしていればもっと貯蓄ができていたはずです。財産分与の際に、こうした事情は考慮されないのでしょうか。

弁護士からの回答

【回答】
考慮されません。ただし、婚姻中に妻が浪費をして不必要な支出をしている場合には、その額を持ち戻した上で財産分与額を計算することもあります。しかし、実際上その主張・立証は困難なことが多いでしょう。

そもそも財産分与とは?

そもそも財産分与とは婚姻期間中の共同生活によって形成された夫婦の財産を清算する手続です。

厳密な話をすれば、財産分与は次の3つの要素で構成されています。上記のような(1)夫婦の共同生活で形成された財産を公平に分配する清算的財産分与、(2)離婚後の一方の生活保障としての扶養的財産分与、(3)離婚の原因を作ったことに対する損害賠償としての慰謝料的財産分与の3つです。この中で中心的要素となるのは(1)の清算的財産分与ですので、以下では清算的財産分与を念頭において説明します。

財産がない場合の財産分与はどうなる?

さて、財産分与はあくまで夫婦の共同生活で形成された財産の清算の制度ですから、形成された財産がなければ財産分与の問題にはなりません。

つまり、離婚の際、夫婦の財産としてほとんど貯蓄がないとか不動産も持っていないとか株もないとかといった場合には、そもそも財産分与の問題とはならないのです。

ご相談のケースでは、離婚時の預貯金残高がほとんどないということですから、財産分与はそもそも問題とならないか、ごく少額とならざるを得ないでしょう。

妻の浪費は考慮されないのか?

ご相談の夫の主張としては、自分はそこそこ稼いでいるんだからもっと貯蓄があるはずだ、それがほとんどないということは妻が不必要な支出をしていたに違いない、妻が浪費した分は本来なら夫婦の共有財産として存在していたはずのものだから、それが存在するという前提で財産分与の額を計算しないと公平ではない、ということだと思います。

実は裁判例にも浪費された分を考慮して財産分与の額を決めた例は存在します。

ですから、妻の浪費を主張して少しでも財産分与を有利に・・・と考えたくなる気持ちはものすごくよくわかります。

ハードルはかなり高い

しかし、実際問題として婚姻期間中のある出費が不必要なものなのかどうかを判断することはかなり困難です。どこまでが許容される出費でどこからが浪費にあたるのかを一律に判断することはできません。夫婦の収入額や貯蓄額、当該支出の額やその支出の必要性などあらゆる事情を総合的に考慮して判断するほかないでしょう。

妻が婚姻前から有している借金の返済のために夫の財産を充てたとか、妻が事業で失敗しその損失を夫が補填したというようなケースでは比較的認められやすいといえるかもしれません。

他方で、衣類や食品、装飾品など日常生活に関連する出費についてはハードルは高くなるでしょう。そもそも夫婦の共同生活を営む上で必要最小限度の出費しか許容されないということはありません。「今回はちょっぴり贅沢しよう」と考えて、奮発することもある程度までは織り込み済みです。

また、今回のご相談では「家計管理をすべて妻に任せていた」ということですから、夫は日常的な家計の収支を把握していないと思われます。夫は「自分はかなり稼いでいるはず、家計の収支はプラスになっているはず」と考えていたとしても、実際には収支はギリギリで貯蓄をする余裕はないということはよくあります。

証拠の確保も困難

そして何より重要なのが立証するための証拠を確保できるかという問題です。

日常的なお金の流れを事後的に把握することは意外と難しいものです。通帳の記載やクレジットカードの利用明細などが残存していて、そこから収支を把握できる場合もあるでしょう。しかし、そうしたケースばかりではありません。現金払いをしており領収書やレシートも残っていない出費もたくさんあるはずです。

特にご相談のケースでは「家計管理をすべて妻に任せていた」ということですから、どこにどういう証拠があるのかを把握することすら困難でしょう。

結局は立証しきれずに妻の「収支はカツカツでした」という主張が通ってしまう可能性が高いと思われます。