離婚した際に決めた親権者が死亡した場合、誰が親権者となるのか?

何年か前のことですが,こういう相談を受けたことがあります。

1か月前に夫と離婚して,子供(3才)の親権は私がとりました。
自分が死んでしまった場合,子供の親権者は誰になるのでしょうか。
自動的に元夫になってしまうのでしょうか。
親権は,調停・裁判を経てようやく勝ち取ったものなので,それが元夫のほうに行ってしまうことがないようにしたいです。

今日はこのご相談をもとに,離婚後の親権について考えたいと思います。

1 離婚の際には,親権者を定めなければなりません。

(離婚又は認知の場合の親権者)
第819条  父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
2  裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。
3  子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができる。
4  父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、父が行う。
5  第一項、第三項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
6  子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。

離婚後,親権者になるのは父母のどちらかです。まずは父母の話し合いで決めますが,話し合いがつかない場合には,家庭裁判所の調停・審判・裁判で決定することになります。

2 離婚した後,親権者となった母親が死亡した場合,親権は父親の方に自動的に移ってしまうのでしょうか?

こういった場合,親権が父親の方に自動的に移ることはありません。
法的には親権者がいない状態となります。
未成年の子に親権者がいない場合,未成年後見が開始します。

第838条 後見は、次に掲げる場合に開始する。
一 未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき。
二 【略】

3 未成年後見人にはだれがなるのでしょうか。父親が自動的に未成年後見人になることはありますか。

父親が自動的に未成年後見人になることはありません。
未成年後見人に誰がなるのかについては,きちんと条文があります。

(未成年後見人の指定)
第839条 未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後見人を指定することができる。ただし、管理権を有しない者は、この限りでない。
2 【略】

最後に親権を行う者が,遺言で指定した者が未成年後見人になります。
今回のケースでは母親が遺言を書いていて,そこに自分が死んだ場合の未成年後見人を誰々に指定すると書かれていれば,その指定された人が未成年後見人になります。

4 遺言による未成年後見人の指定がなされていない場合はどうなりますか。

この場合も民法で定められています。

(未成年後見人の選任)
第840条 前条の規定により未成年後見人となるべき者がないときは、家庭裁判所は、未成年被後見人又はその親族その他の利害関係人の請求によって、未成年後見人を選任する。未成年後見人が欠けたときも、同様とする。
【後略】

未成年者や親族が家庭裁判所に「未成年後見人を選任してください」という申し立てをして,家庭裁判所が適切な未成年後見人を選ぶことになります。
この場合、裁判所での審理の結果父親が親権者にふさわしいということになれば、父親に親権が移ってしまう可能性もあります。

5 ということは、きちんと遺言を書いて、その中で死後の未成年後見人を指定しておけば父親に親権が移ることはないということですね?

条文を読んでいると遺言で未成年後見人を指定しておけば、父親に親権が移ることはないとも考えられるのですが、ことはそう簡単ではありません。
実は、遺言で未成年後見人が指定されているケースでも、父親は親権者変更の申立てをすることができます。この申立が認められたケースもあります(大阪家庭裁判所平成26年1月10日審判、大阪高等裁判所平成26年4月28日決定)。

大阪家庭裁判所平成26年1月10日審判から引用します。

離婚の際に一方の親を親権者と定めることを要するのは、離婚した両親にとって親権を共同して行使することは事実上困難であるためであるから、親権者と定められた一方の親が死亡して親権を行う者が欠けた場合に、他方の親が生存しており、未成年者の親権者となることを望み、それが未成年者の福祉に沿う場合においては、親権者変更の可能性を認めることが相当と解される。

遺言書を書いて未成年後見人を指定していても必ずしもその通りになるというわけではありません。

6 遺言は本人の最後の意思表示です。それをできる限り尊重するべきなのではないでしょうか。だとすれば父親への親権者変更は認められるべきではないとはいえませんか?

こうした疑問についても先ほどの審判で次のように述べられています。

親権であれ、未成年後見であれ、未成年者の利益を重視して運用されるべきものであり、遺言による未成年後見人の指定においては、その適性を審査する機会が全く存在しないことにも照らすと、同指定がされたときには親権者変更の余地がないとすることは、却って未成年者の利益を害しかねないものと考えられる。

要するに、遺言で指定された未成年後見人が本当に適切な人物なのかどうか、裁判所が審査する機会が一切ないということになると、それはそれで未成年者の利益が害されてしまう場合もあるのではないか。そういった事態を避けるためにも親権者変更の余地は残しておくべきではないか、ということです。

7 まとめ

いかがでしたでしょうか。条文もたくさん出てきて少々複雑だったかもしれませんが、要は父親が本気になれば親権争いの第2ラウンドは避けられません、ということです。

そして、それはとりもなおさず未成年者の権利・利益を守るために裁判所が介入できる余地を残しておいた方がよいという価値判断に基づいています。

苦労して親権を勝ち取った方としては煮え切らない部分があるかもしれませんが、「子の幸せ」のために親権という制度はどうあるべきかを考えると、致し方ないところかなと思います。