「契約書を作ろう!」とはいうけれど、ただ作ればいいってもんじゃない

契約書は大切な証拠!

契約書は、契約が成立したことやその内容を証明する重要な証拠です。

契約書があればトラブルを未然に防止することだってできますし、万一トラブルになった時にも簡易で迅速な解決が望めます。

安易に作成するとかえってトラブルを招いてしまうかもしれない!?

最近ではネット上にも契約書の雛形や参考となる条項案がたくさんありますから、そういったものを利用して契約書を作ったことがあるという方もあるかもしれません。

また、市販の契約書の雛形を利用したことがあるという方もおられるかもしれません。

こうした雛形を利用すると簡単にかつ安く契約書を作ることができますからとても便利です。

しかし、そういったものは標準的な条項が入っているだけで個別のケースの特殊性を考慮したものとはなっていません。

また、あまり深く考えずに使ってしまうと、知らず知らずのうちに不利な条件を受け入れてしまっていたり、内容が不明確でトラブルになってしまったりということもあります。

利用する際にはそうした思わぬ落とし穴があることを考えておく必要があります。

具体的なケースで考えてみましょう。

[ケース]

Aさんは、知人のBさんからお金を貸して欲しいと頼まれました。金額は100万円です。大金なので一度は断ろうとも考えましたが、結局貸すことにしました。Bさんは一括で返すのが難しかったので、分割で返済することにし、Aさんもこれを了承しました。

しかし、返してもらえるか不安だったAさんはきちんと借用書を作ることにしました。

Aさんは、ネット上に転がっていた情報を参考に、「私(B)は、本日Aさんから100万円を借りました。来月から月々5万円ずつ、毎月月末に返済します。」という内容の借用書を作りました。Bさんのサインとハンコをもらって、100万円をBさんに交付しました。

Bさんは、最初の3回はきちんと返済をしていましたが、4回目の返済から遅れるようになり、6回目の返済から全く返済しなくなりました。

AさんがBさんにちゃんと毎月約束通りに払うように言っても、Bさんは「必ず返す、今はお金がないからちょっと待ってくれ。」と繰り返すばかりでなかなか返済しようとしませんでした。

Bさんが信用できなくなったAさんは、残金75万円を一括で支払ってもらって、早くこの件を終わらせたいと考えています。

Aさんは、Bさんに対して、残金を一括で支払ってもらうことができるでしょうか。

 ちょっと考えてみてください。

借用書があるから大丈夫!?

 いかがでしょうか。

 結論からいうと、AさんはBさんに対して残金を75万円を一括で返してもらうことはできません。

 「きちんと借用書も作ってあるし、約束を破ったのはBさんの方、Aさんには何の落ち度もない、一括で返してもらえないのはおかしい。」と考えた方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、AさんとBさんが取り交わした借用書がまさに問題なのです。

法律的にはどうなっているのか?

借用書にはこう書いてあります。

「私(B)は、本日Aさんから100万円を借りました。来月から月々5万円ずつ、毎月月末に返済します。」 

これを法的にみてみると、Aさんは貸した100万円をBさんから返してもらえるという「貸金返還請求権」を持っているということになります。

ただし、毎月5万円ずつ分割して支払うということが条件となっています。

つまり、Aさんは、100万円を返してはもらえるんだけれども、それは月々5万円ずつだけです。Aさんは、100万全額返って来るまでには20ヶ月=1年8ヶ月待たねばならないわけです。

Bさんからすれば、約束の期限が来るまで100万円を一気に全額返す必要はない、100万円を返すまでに20ヶ月の猶予をもらったということになります。

「期限の利益」とは?

このように、Bさんの立場からみて、期限があることによってその期間借金を返済しなくて良い状態になることを、法律用語で「期限の利益」と言います。

Bさんは、100万円を分割で返済すれば良いわけですから、「期限の利益を有している」というふうに表現します。

Aさんは、Bさんから確実に貸金を返済してもらいたいという思いで借用書を作っています。その目的自体はこの借用書で達成できてはいます。

しかし、返済が滞ったときの対処方法については条項がなく、返済方法についてはBさんに有利な内容のものとなってしまっていたのでした。

じゃあ、Aさんはどうすればよかったのか?

Bさんからさっさとお金を返してもらって、この件を終えたいと思っているAさん。全額帰って来るまでに1年以上もかかってしまいます。そんなに待てませんし、Bさんが確実に払ってくれるという保証もありません。

では、Aさんは、どうすればよかったのでしょうか?(そんなBさんに貸してしまったのがそもそもの間違いだというのは無しで。)

「期限の利益の喪失条項」とは?

Aさんがこうした事態に陥ってしまったのは、借用書でBさんに期限の利益を与えてしまっていたからでした。であれば、Bさんから期限の利益を取り上げてしまえばいいのです。

ここで登場するのが「期限の利益の喪失条項」です。

お金を貸す時には、本当に返してもらえるだろうか、という点が問題になります。逆に言えばお金を貸す時にはこの人なら返してくれるだろうと、相手を信用して、貸すわけです。

しかし、返済がとどこおったりすると、「この人、本当に返してくれるんだろうか・・・」、と不安になりますよね。

その不安が一定水準をこえたところで、「もう信用ならん、貸した金今すぐ返せ」と言いたくなると思います。

このように、貸した相手に一定の信用不安が生じた時に、相手がいったん受けた期限の利益を失うことを「期限の利益の喪失」と言います。

そして、どういった信用不安が生じた時に、期限の利益を喪失するのかということを定めた条項を「期限の利益の喪失条項」といいます。

たとえば、「支払いを怠り、未払い額が×万円に達した時」とか「差し押さえを受けた時」などを規定したりします。

Aさんのケースでは、「Bさんが返済を月々の返済を怠って、未払い額が10万円に達した時には、Bさんは期限の利益を喪失し、残額を一括して返済する」といった条項をいれておけば、Bさんが支払いを滞納したときに、残額を一括で請求できるようになるのです。

契約書の作成・チェックを弁護士に依頼するメリット

契約書を作りは、どんなに短く、簡単なものであってもいろいろなところに法的な落とし穴が潜んでいるものです。

Aさんも、頑張って借用書を自分で作成しましたが、Aさんの考えていたこととずれてしまっていたようで、なかなか思い通りにことが運びませんでした。

弁護士にご相談いただければ、相談者のニーズがどこにあるのかを的確に把握し、それを実現するためにはどういった条項を盛り込めば良いかについて、様々なアドバイスが可能です。

契約書自体の作成をご依頼いただくこともありますし、ご自身で作成された契約書をこれで大丈夫かチェックして欲しいというご依頼もたくさんいただいております。

「契約書がなくて本当に大丈夫かなぁ」、「作ってはみたけれど、これでいいんだろうか」という方はぜひ一度ご相談下さい。プロの目できちんと診断いたします。