スマホゲーム課金によってできた借金は免責されるか?

1 スマホゲームの課金でできた借金は免責されない!?

スマホゲームや課金システムの普及とともに、スマホゲームで借金を作ってしまったとい言う人も増えつつあります。法律相談の現場でもゲームへの課金で借金をしてしまったという相談は増えているという印象です。

ネット上で「スマホゲームの課金でできた借金では免責は認められない」などといった言説も目にすることがありますが、今回はスマホゲーム課金によって借金を作ってしまった場合免責は認められるのかについて考えてみます。

2 スマホゲーム課金で借金を作ってしまった場合、破産法252条1項4号の「浪費」に当たる。

スマホゲーム課金は破産法252条1項4号の「浪費」に当たると考えられます。

破産法252条

1項 裁判所は破産者について,次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には,免責許可の決定をする。

4号 浪費又は賭博その他の射倖行為をしたことによって著しく財産を減少させ,又は過大な債務を負担したこと

破産法252条1項各号は免責不許可事由を定めており、これに該当する場合には免責が認められません。スマホゲームの課金は破産法252条1項4号の「浪費」に当たります。したがって、スマホゲーム課金で著しく財産を減少させ、又は、過大な債務を負担したときは、免責が認められない可能性があります。

3 破産法252条2項の「裁量免責」が認められる可能性はある。

もっとも、スマホゲーム課金によって借金を作ってしまい、「浪費」に該当するとしても、破産法252条2項の「裁量免責」が認められる可能性は十分にあります。

破産法252条2項

2項 前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。

破産法252条1項の免責不許可事由があっても、裁判所が相当と認めるときには免責が認められる場合があります。これを「裁量免責」と言います。この裁量免責はどのような場合に認められるのでしょうか。

条文にもあるとおり、裁判所は「一切の事情」を考慮して免責を認めるか否かを決定します。ですから一般的に「こういう場合には裁量免責が認められますよ」というのはなかなか難しいのですが、スマホゲームで借金を作ってしまったというケースの場合、以下のような事情が検討対象になると考えられます。

・現在はスマホゲームも課金もやめている(借金の原因の除去)

・ギャンブル、ゲーム依存症などの病気が考えられる場合には、医療機関を受診し改善に尽力している。

・スマホゲームによってできた借金があるとしても、負債総額に占める割合が低い。

・スマホゲームによってできた借金があるとしても、その大部分を返済している。

・自分のお金の使い方について反省し、経済的な立ち直りに向けて尽力している。

裁量免責は、実務上比較的緩やかに運用されているという印象です。したがって、スマホゲームの課金で借金を作ってしまったとしても免責が認められないケースはさほど多くはないと考えられます。

4 破産管財事件になる可能性が大きい。破産申立てをする際、管財費用として約20万円が必要になる。

スマホゲーム課金で借金をしてしまったとしても、最終的には免責が認められる可能性は十分あります。しかし、そうしたケースは同時廃止事件ではなく免責調査型の破産管財事件として扱われる可能性が高くなると考えられます。そのため同時廃止事件に比べて費用が20万円ほど余分にかかってしまいます。

スマホゲーム課金で借金を作ってしまったケースでは、「免責されるか否か」という問題よりも、管財費用を用意しなければならなくなるという点の方が現実的な問題として大きいといえるでしょう。

5 私の担当したケース-スマホゲーム課金があったけれども、同時廃止事件で手続きを終了することができました。

法律相談の際に、スマホゲームで課金して借金を作ったというお話を伺った際には、管財事件になる可能性が高いと考えておりました。

もっとも、その後業者から取引履歴を取り寄せ借金の額を確認したり、依頼者から詳しいお話を伺ったりしていくうちに次の事情が明らかになりました。

・スマホゲームで課金していたのは2年間ほどで今は完全にやめている。

・その間に課金に費やした額は50万円くらい

・その大部分はすでに返済している

・もう少しで返済が終わるというときに仕事を辞めざるをえなくなり、収入が途絶えた

・返済ができなくなり、返済や生活費のため借金を重ねるようになった。

こうした事情を見てみますと、確かにこの依頼者の借金のきっかけはスマホゲームだったのかもしれません。しかし、借金が膨らんでいったもっとも大きな原因は「仕事を失ったこと」にあります。そしてスマホゲーム課金による借金はすでに大部分を返し終わっているのですから、「浪費」によって「過大な債務」を負ったとはいえないのではないかと考えました。

破産申立てを行い、こうした事情を書面にして裁判所に提出しました。裁判所から若干の指摘はあったものの、無事同時廃止で手続きを終えることができました。

スマホゲーム課金で借金を作ってしまったという点であきらめるのではなく、事情を丁寧に整理していけば道は開けてくると実感したケースでした。

※ ご本人の了解を得て記載しています。また、特定を防ぐために事案の内容を改変しております。