「その遺言書は無効だ!」といわれ、裁判にまで発展!!
相談者
40代、男性、既婚
相談内容
昨年親が亡くなりました。親は遺言書をのこしており、その遺言書の記載のとおりに相続手続を行おうとしました。
ところが、遺言書の内容に納得していない相続人の一人から「その遺言書は無効だ!」とのクレームが入り、そのまま訴訟まで起こされてしまいました。
この遺言書は本当に無効なのでしょうか?
こうして解決!
依頼者の親が作成していたのは自筆証書遺言でした。自筆証書遺言には厳格な要件が法律で定められており、この要件をすべて満たさなければ遺言書は無効です。
自筆証書遺言の要件とは?
自筆証書遺言の要件は民法968条に定められています。
民法第968条
1 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
遺言者が全文、日付、氏名を自書すること
自筆証書遺言の要件の一つ目は、「遺言者が全文、日付、氏名を自書すること」です。「自書」とは遺言者が自分の手で書くことですから、一部分でも遺言者以外の人が書いた部分があれば遺言書全体が無効となります。
遺言書に書きたい内容が長くなる場合にはパソコンのワープロソフト等を使って作成したくなるかもしれませんが、パソコンを利用した遺言書も無効になってしまいます。
遺言書の本文だけではなく、日付や氏名も自書しなければなりません。「平成30年11月吉日」のように具体的な年月日が特定されない書き方は無効となってしまいますので注意が必要です。
押印すること
自筆証書遺言の要件の二つ目は、「押印をすること」です。押印がない遺言書は無効です。印鑑は実印でも認印でもかまいません。
加除その他の変更の方法
遺言書の内容を一部変更・修正したい場合の方法も法律で定められており、「自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。」とされています。
かなり複雑ですが、
- 削除・加筆したい部分を指示する。削除なら二重線で消す、加筆なら追加したい文言を挿入する。
- 削除・加筆した部分に押印する。
- 遺言書の欄外に「〇行目、〇文字削除、〇文字加筆 (署名)」と自書する。
この方法に則っていない修正は、修正したことが無効となり、修正がないものとして扱われます。遺言書全体が無効となるわけではありません。
相手方が主張していた遺言書無効の理由は?
このケースで相手方が主張していた遺言書無効の理由は「遺言書に押印がない」というものでした。
依頼者の手元にある遺言書の原本にはきちんと押印がなされています。私も確認しましたが、民法968条1項の要件すべてをきちんと満たしておりました。ですからこの遺言書は無効ではありません。
にもかかわらず、相手方は「この遺言書は無効だ!」というのです。その理由はこうでした。
「葬儀のあと、相続人全員で集まって親の遺言書を確認した。そのときには遺言書の押印がなかった。依頼者が相続手続を行おうとした際に押印がないことに気づきあとから自分で押印したのだ」
遺言書は遺言者が押印しなければ当然無効です。相手方の主張のとおりの事実経過であれば、遺言者の残した遺言書には押印がなかったわけですから、依頼者の手元にある遺言書は無効となります。遺言者の死後に遺言者の使用していた印鑑を用いて押印をしたとしても遺言書が無効であることに変わりはありません。
依頼者の説明では「遺言書にははじめからきちんと押印があった、私があとから押印した等ということはない」とのことでした。
そこで、依頼者から親が生前遺産について話していた内容や、遺言書作成の経緯、葬儀のあと相続人全員が集まって遺言書を確認した時の状況やその後の経緯をこまかく書面に記載し、遺言書にははじめから押印があったと主張しました。
その結果、依頼者の主張通り「遺言書にははじめから押印がなされていた」という判決を得ることができました。
雑感
遺言無効確認訴訟では、訴えを提起するのは相手方ですが、遺言が有効であることの主張立証責任は訴えられた側が負います。
被告とされた側は、ある日突然訴訟を提起され、遺言書が有効であることを立証しなければならなくなります。ここが通常の訴訟とは異なります。
このケースでは依頼者が親の残していたメモなど証拠となる書類をたくさん保管していたこともあり遺言書が有効であることを立証できました。
しかし、「押印がいつの時点でなされたのか」についてはこれを客観的に示す証拠はありませんでした。
自筆証書遺言を作成するときには後のトラブルを予防するために、完成した遺言書のコピーを残しておいたり、写真を撮っておくなどの「要件をきちんと満たしている」ことが確認できる資料を残しておくことが大事だと再認識したケースでした。