成年後見制度の利用者20万人―まだまだ少ない!

先日、福岡県弁護士会筑豊部会と福岡家庭裁判所筑豊3支部(飯塚・田川・直方支部)との間で後見制度等に関する協議会を開催しました。

これは毎年1回開催されているものでして、高齢社会において、後見制度は判断能力が不十分な方の権利を守る上で不可欠の制度であるとの認識のもと、その担い手である裁判所と弁護士会との間で後見制度等の運用状況の確認や改善点などについて率直に意見交換をしております。

後見制度は利用者数も年々増加しており、社会的な認知もすすんでおります。

私が弁護士を始めたばかりの頃は後見制度について知っている人はほとんどおらず、金融機関や役所、介護施設などいろんなところで「後見ってなんですか?」と聞かれ、そのたびに「後見っていうのはですね」と説明していたことが思い出されます。

ところで、現在、後見制度を利用している方は約20万人です。

みなさんはこの20万人という数字,多いと思われますか,少ないと思われますか。

私は「少なすぎる」と思います。

厚生労働省が推計した全国の認知症高齢者の数は,462万人です。

仮に,成年後見制度を利用している方が全員認知症患者だったとしても,認知症患者に占める成年後見制度利用者の割合はわずか4.3%です。

成年後見制度を利用できると思われる方のうち,わずか4.3%しか利用していないわけです。

逆に言えば,約96%の方は自分で財産管理が困難な状態にあってもそれを支援してくれる方がいないということです。

これって結構大問題だと私は考えています。

  1. 悪徳商法・詐欺に引っかかってしまうかもしれません。
  2. 介護施設等に入所する際の入所契約も,本来であれば後見人等が本人に代わって行わなければ無効になってしまいます。
  3. ご本人の介護費用を捻出するために不動産等を売ろうと思っても,親族が代わって手続きをすることはできません。
  4. 親族が亡くなったとき遺産分割をしなければなりませんが,そのときご本人に代わって遺産分割協議に参加する後見人等がいなければ遺産分割協議はできません。

こうしてみると,認知症や知的障害,精神障害の方が安心して生活できるようにするためにも成年後見制度の利用拡充は喫緊の課題と言っていいと思います。

しかし,一気に利用が増えてしまうと今度は担い手がいないということになりかねません。

現状では親族後見人の他に弁護士や司法書士,社会福祉士などの専門職後見人も後見人の担い手となっています。その割合は約3割が親族後見人で,約7割が専門職後見人です。

仮に認知症患者のうち20%の方が成年後見制度を利用した場合,利用者は約92万人になります。

このうち7割=約64万人を専門職で担当するとなると,間違いなく人手が足りません。

専門職後見人の割合は年々増加しておりますので,人手不足の解消は重大な問題です。

また,家庭裁判所の人員体制も整える必要があるでしょう。成年後見制度では後見人等が適切な財産管理を行っているかどうかを家庭裁判所が監督することになっています。

しかし,現状でも人手不足という話はよく聞きます。これが20%の方の利用ということになると,多分裁判所はパンクすると思います。

日本は高齢化社会と言われて久しいですが,そのための準備は整っていません。今のままでは安心して年を取ることもできません。

成年後見制度の担い手を確保し、もっと利用しやすい制度となることを願います。