法律用語はややこしくておもしろい

我々法律家は普段専門用語を使ってお仕事をしております。

その専門用語の中には、一般の方には聞いただけ、見ただけでは意味のわからない言葉も多く含まれていることと思います。

しかし、これはわざとわかりにくくするために専門用語を使っているわけではありません。

専門家同士の間ではこうした専門用語を用いて話をした方が、誤解もなく、簡単に、こちらの意見なり主張を伝えることができるから、こうした専門用語を用いるわけです。

法律相談のときなど、一般の方に説明するときは、専門用語はできる限り使わないで、日常よく使うごく普通の言葉を用いて対応しております。

ただ、専門用語を使わないで説明するのって実は結構大変で、正確に説明しようとすると長く回りくどくなってしまいますし、短くしようとすると正確性が犠牲になってしまいます。その辺の兼ね合いが悩みどころです。

また、結構困るのが「日常語と意味がずれている専門用語」です。

例えば、「善意」「悪意」という言葉。一般的には、

  • 「善意」は「親切心」とか「好意」
  • 「悪意」は「他人を憎む気持ち」とか「害を加える意思」

といった意味で使われる言葉ですが、法律用語ではこうした倫理的な意味合いは含んでいません。

  • 「善意」は「ある事実を知らないこと」
  • 「悪意」は「ある事実を知っていること」

という意味で使っています。つまりある事実を認識しているかどうかです。

こうした言葉は日常でも使う言葉ですから、日常語とは違う意味で使っているということを認識していないと、話がかみ合わないということになってしまいます。

他にも、だいたい意味は同じだけれどもその言葉の一般的なイメージと異なっている言葉があります。

たとえば「暴行」。

刑法に暴行罪という罪名がありますが、ここでいう暴行は一般的にイメージする暴行よりもかなり範囲が広くなっています。

一般的には「暴行」といえば、殴る、蹴る、ビンタ、頭突き、肘鉄、体当たり、物を投げつける、目つぶし、膝かっくん、あたりでしょうか。こうした行為を行えば、暴行罪に該当するのは当然です。

しかし、刑法の暴行罪はもっと広い範囲を処罰対象としています。

判例上認められたケースを幾つかご紹介しましょう。中には「そんなのも暴行に当たるのかよ!?」といいたくなるものまであって、結構楽しいです。

  • 「人の毛髪•髭を切る行為」は暴行
  • 「被害者の身辺近くで大太鼓、鉦(かね)などを連打し頭脳の感覚が鈍り、意識朦朧たる気分を与え、または脳貧血を起こさせる程度に至らせた場合」は暴行
  • 「被害者にむかって、塩をふりかける行為」は暴行

なお、暴行行為によって被害者が怪我をしてしまったら、暴行罪ではなくて傷害罪で処罰されます。このへんも一般的な「暴行」のイメージとずれるかもしれません。

法律用語はお勉強してみると、結構面白い発見がたくさんありますよ。