男性の働き方が変わらないと、親権=母親有利の現状は変わらない

離婚の際の親権者、母親が圧倒的多数

離婚の際未成年の子がいる場合、その親権者を父親か母親かに決めなければなりません。

法律上は、まず夫婦の協議によってどちらが親権者になるかを決めることになっていますが、協議が整わない場合には家庭裁判所での調停・審判、最終的には判決によって決定します(民法819条)。

ご存じの方もいらっしゃると思いますが、現状では母親が親権者に指定されるケースが圧倒的多数です。どれくらい圧倒的かというと「父親:母親=1:9」程度と言われており、ほとんどのケースで母親が親権者となっています。父親が親権者になるケースはレア中のレアです。

私もこれまで離婚のケースを数多く担当してきましたが、父親が親権者となったことはありませんでした(そもそも父親が親権者となることを希望するケース自体そこまで多くないという印象です。)。

なぜ母親が親権者に指定されやすいのか。

なぜ親権については母親が親権者となりやすいのでしょうか。

私の考える要因は「父親がほとんど育児・家事をしていないから」というものです。

離婚の際、親権者を父親と母親のどちらにするかはいろいろな要素を検討して決めるのですが、その一つに「これまで育児・家事を担ってきたのは誰か」という要素があります。これまで育児・家事を中心的に担ってきた親がいるのであればその者が引き続き親権者として子を養育するのが適当だという考えです。

逆に考えればこれまでろくに育児をしていない者がいきなりこれからはきちんと養育しますと言いだしてもあまり効果はありませんということです。

つまり、母親が親権者となるケースが圧倒的に多いのは父親がほとんど育児・家事をせず、母親に任せっきりになっていることが要因と考えられます。

イクメンブームではあるけれど、ほとんど育児・家事をしていない男性

「それはおかしい、イクメンといわれているように男性も積極的に育児・家事をするようになっているはずだ」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。

以前と比べれば父親の育児への貢献度は上昇しているといえるのかもしれません。しかし、統計上の数字を見ると、父親の育児への貢献度は低いと言わざるをえません。

こちら(http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-28-07.pdf

「平成28年度雇用均等基本調査(速報)」)の資料で「育児休業取得者の割合」を見てみますと、

女性 : 81.8%

男性 : 3.16%

となっております。女性は80%以上の方が育児休暇を取得している一方で男性は3.16%。比較にもなりません。ちなみにこの「3.16%」という数字は「過去最高値」です。

さらに衝撃的なのは「育児休業の取得期間」です。

こちら(http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-27-07.pdf

「平成27年度雇用均等基本調査」)の数字を見ると、女性の育児休業期間は

「10か月~12か月未満」            31.1%

「12か月~18か月未満」            27.6%

「8か月~10か月未満」               2.7%

「6か月~8か月未満」              10.2%

となっており、8割以上の方が半年以上育児休業を取っています。

他方、男性の方は

「5日未満」                                56.9%

「5日~2週間未満」                   17.8%

「2週間~1か月未満」                8.4%

です。全体の半分以上が5日未満、8割以上の方が1か月未満の休業しか取得していません。

つまり、「父親はそもそも育児休業をほとんど取得していない、取得する人もいるが全体の3%くらいでごく一部の人に限られる、さらに育児休業を取得した人もその半数以上は休業期間5日未満で、8割は1か月未満」ということです。

世の男性はほとんど母親に比べてほとんど育児・家事をしていないことはご理解いただけるのではないかと思います。

こうした状況で、父親が離婚後はしっかり育児・家事しますよといっても説得力はありません。親権者が母親となるのはごく自然な流れなのです。

なぜ父親は育児・家事をしないのか

どうして男性の育児・家事の貢献度がここまで低くなってしまうのでしょうか。

ここで「男性が怠けているから」「男性は外、女性は内と考える男が多いから」等といった具合に個々の男性に原因があると考えてしまうと問題を見誤ります。

「男性を取り巻く労働環境が、男性の育児・家事への参加を許さない」というのが私の考えです。

男性は朝早くから夜遅くまで会社で働いているため育児・家事をしようと思ってもできません。

また、育児休業を取得しようとしても昇進・給与等に影響する可能性を否定できず長期間の育児休業の取得は困難です。

さらに、一般に夫の方が妻よりも収入が多いため夫が育児休業を取得すると世帯収入の大幅な減少につながります。世帯単位で考えた場合夫が働き妻が育児休業を取得する方が合理的な選択になってしまっています。

こういった状況を放置しておいては男性の育児・家事の参加はいつまでたっても改善はされないでしょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今、国を挙げて「働き方改革」が推進されていますが、これによって男性の長時間労働が改善されれば男性の育児・家事への貢献度が上昇し、離婚時に父親が親権者に指定されるケースも増えてくるかもしれません。

もっとも現状の育児休業の取得の状況をみるとまだまだ先の未来の話だろうと思います。