民法改正によって法定利率が変わります。

1 法定利率が年5%から3%に引き下げ

これまで民法では法定利率が年5%と定められていました。利息が発生する取引をする場合に、当事者がその利率を約束していない場合に、この法定利率年5%が適用されていました。

しかし、近時の金利情勢から考えると年5%の利息というのは破格的な高利率といえるでしょう。そこでこの年5%を改正し、金利情勢に合わせようというのが今回の改正の主眼です。こうした観点から今回の改正で法定利率は年5%から年3%に引き下げられました。

2 3年ごとに利率が変動

また、この法定利率は3年ごとにその時々の金利情勢に合わせて見直され1%単位で変動することになりました。つまり3年ごとにその時の金利情勢に合わせて1%ずつ上がったり下がったり、あるいは据え置かれたりすることになります。

なお、商法514条に定められていた商事法定利率(年6%)というものがありますがこちらは今回の改正で削除されました。

3 実務への影響-貸出金利には影響なし

さて、こうした法定利率の改正によって実務上どのような影響が出てくるでしょうか。

利率が下がったからと言って、消費者金融などから借り入れをする際の金利が下がったりするわけではありません。もともとお金を借りる際の利率は当事者間の合意で定めることができます(利息制限法上の規制はありますが)。これを「約定利率」といいます。消費者金融などからお金を借りるときはこの約定利率で利息が定められるのが通例ですから、今回の民法改正の影響はないものと考えられます。

4 交通事故等の賠償額への影響は大きい-2000万円の差が生じる!?

最も影響が大きいと考えられるのは交通事故などの際の損害賠償額の計算です。交通事故の損害賠償の項目に「逸失利益」というものがあります。この逸失利益を計算するときに中間利息控除という操作をするのですが、この操作の際に使用される利率が法定利率とされているのです(改正民法722条1項→改正民法417条の2)。

これまでは年5%を基準として中間利息の控除の計算を行ってきました。これが年3%で計算すると損害賠償の額が大きくなります。ちなみに賠償金の額がどれくらい変わってくるかというと、日本損害保険協会が「27歳男性(全年齢平均賃金:月額415,400円/就労可能(能力喪失)年数40年)、一家の支柱・被扶養者2人(生活費控除割合35%)」という条件の男性が交通事故で死亡した場合の損害賠償額を試算した資料があります。

(参照:http://www.moj.go.jp/content/000124116.pdf

これによると、利率が5%の時は逸失利益の額が約5559万円ですが、これが3%になると約7489万円と約2000万円賠償額が増えます。

交通事故の際の支払いは保険会社が支払いをしますので、保険会社の支払う保険金の額が増えることになります。とすると、それが保険料にも跳ね返ってくることになるでしょう。実務への影響はかなり大きいものと考えられます。

法改正によって法定利率が年5%から年3%に変わっただけで賠償額が2000万円変わってくるというのはなんとも腑に落ちない話です。極端な話をすれば、改正法の施行日の前日に事故に遭って死亡した人と、施行日当日に事故に遭って死亡した人がいる場合、わずか1日の違いで賠償額が数千万単位で違ってくるわけです。

これは賠償額の大部分を占める逸失利益の考え方に原因があるわけですけれども、こうした違いが発生してしまう賠償額の算出方法自体、本当にそれでいいのかという疑問も出てくることでしょう。法改正の審議過程でも同様の疑問は指摘されていました。

今後もこの分野については注視していく必要があると思います。